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 トップページ > 遺跡調査部のご紹介(リレー・ブログ) > #099 魔法の小札をもとめて たそねる (2017.4.14)

 
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#099 魔法の小札をもとめて たそねる

 昨年の8月の初旬、盛夏著しいさなか、神奈川県鎌倉市に行ってきました。

 夏越祭の準備に忙しい鶴岡八幡宮を訪ねるなど、情緒あふれる江ノ島電鉄に乗り寺社仏閣をめぐって鎌倉観光を満喫しました。

 しかし中世考古学リスペクト軍団の一人である私にとって、鎌倉へ行く理由は、一般的な鎌倉観光とは少し異なります。

①鶴岡八幡宮
奥に見えるのが夏越祭の茅の輪です。


②鎌倉の新名物ローストビーフ丼です。


③江ノ電鎌倉高校駅前。
アニメやドラマの舞台となった駅です。


④江ノ電極楽寺駅。
考古学の鬼森本六爾は極楽寺の仮寓で
息を引き取ったと聞きます。

 そもそも鎌倉市は鎌倉幕府の置かれた都市であり、発掘調査も毎年のように行われています。長年の発掘調査の結果、鎌倉市内では他の地域とは比べ物にならないほど膨大な量の遺物や遺構が発見されています。

⑤訪れた時も発掘調査が
行われていました。
(若宮大路)

中世考古学研究者の河野眞知郎さんは、「物資と情報は西からのものを貪欲に呑み込み、人は東国各地から吸い上げ、技術も吸い上げ、それを東国には還流させないことを「鎌倉ブラックホール論」と呼んでいます(河野1995)。

 また、同じく中世考古学研究者の斎木秀雄さんは、鎌倉市の遺跡から出土した輸入陶磁器を出土量から概算しています。これによれば鎌倉市内では、鎌倉時代中期からの100年間でじつに約70万個体が消費されたと概算しています(斎木1992)。

 それは700年前の遠いお話…なんてことはありません。実は、中世都市鎌倉が莫大に消費した輸入陶磁器の名残りは、現在の海岸にみることができるのです。なんと鎌倉市の材木座海岸や由比ヶ浜海岸付近では輸入陶磁器の小片が拾えるのです。これが鎌倉へ行く1番の理由です。

⑥海水浴客で賑わう材木座海岸です。

 今回、材木座海岸にて海水浴客が向ける奇異の視線を振り切り、なんとか輸入陶磁器である青磁の破片を数点拾うことができました。

⑦材木座海岸で拾った輸入陶磁器です。

 写真中央は椀の口縁部から体部にかけての小片です。表面には蓮を模した鎬蓮弁文(しのぎれんべんもん)がみられます。年代は13世紀中頃から14世紀初頭前後と考えられます。この時期の青磁の釉は発色がよく、透き通るような宙(そら)色をしており、私は大好きです。

 写真右も同様に蓮弁文を有する椀の小片ですが、蓮弁文の中に細かい縦の櫛目が施されているのが特徴と言えます。年代は12世紀中頃から後半と考えられます。

 左は皿の底部から体部にかけての破片です。外面は釉薬をヘラ状の工具でかきとられています。釉の発色はやや黄色身をおび、貫入(表面にみられるひびのようなもの)がみられます。年代は12世紀中頃から後半と考えられます。

 これらの青磁はいずれも竜泉窯で焼かれた製品と考えられます。龍泉窯は当時の南宋から元(現在の中国)の浙江省に存在した窯です。

 このような陶磁器の破片を手にすると歴史の一端に触れているような感覚になります。ネットで調べますと、海岸で漂着物などを拾うことを最近は「ビーチコーミング」などと呼び慣わすようでして、土器や貝殻、ガラス瓶などが人気のようです。由来が不明のモノを集め、思索を巡らすのは、考古学の原始的な姿のひとつなのかもしれません。

 東洋陶磁器研究の第一人者である三上次男先生はこんな言葉を残されています。「陶磁の破片は、見はてぬ夢をたくす魔法の小札(こざね)のようなものだ。」(三上1969)この言葉は、誰からも忘れ去られ、気に留められることなく、海岸や山野に横たわる陶磁器の小片には、歴史のロマンやおもしろさが秘められていることを的確に表現しています。魔法の小札は、意外とあなたの足元に落ちているのかもしれません。

※参考にした文献です。どれもとても勉強になる本です。是非読んでみて下さい。

・河野眞知郎1995『中世都市鎌倉――遺跡が語る武士の都』講談社
・斎木秀雄1992「かわらけの個体数計算の試み」『鎌倉考古』第24号 鎌倉考古学研究所
・太宰府市教育委員会2000『大宰府条坊跡ⅩⅤ―陶磁器分類編―』太宰府市の文化財第49集
・三上次男1969『陶磁の道―東西文明の接点をたずねて―』岩波新書


(管理人:葉羽)



        
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