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 トップページ > 遺跡調査部のご紹介(リレー・ブログ) > #046 刃物と砥石 (2015.7.16)

 
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#046 刃物と砥石 門脇秀典

 昨今の事情で「仁侠(にんきょう)映画」が公開されなくなって久しい。昔は高倉健さんの「昭和残侠伝」などを食い入るように見たものである。着流しの健さんには日本刀がよく似合う。そして、健さんは日本刀をこよなく愛し、幾人もの刀匠と親しく交流された。

 日本人ほど、刃物の斬れ味(切れ味)にこだわり、それに美意識をもつ民族はいないのではないかと思う。研ぎ上げられた日本刀を手に持つと日常にはない感情が芽生えるものである。日本刀を介して、自分自身と向き合うことができる。不思議なものである。

 刃物というものは、研ぐことで初めて切れるようになる。日本刀もしかり、庖丁もしかりである。「研ぎ」もまた日本文化の神髄である。昔は、日本国内に100種以上の天然砥石があったという。研ぎ師なる職業も江戸時代には確立していたし、研ぎの流派まである。

 「折り紙付」という言葉があるが、これは本来、研ぎ師である本阿弥家が付けた刀剣鑑定書に由来する。江戸時代初期には「寛永の三筆」で有名な本阿弥光悦を輩出するが、稀代の天才を生み出す土壌は、日本刀の鑑定によって培われた美意識ではないかと思う。

 現代、刃物で切れ味を試されるものは、「鉋(かんな)」と「剃刀(かみそり)」と「庖丁」だといわれている。前二者は今では玄人でもなかなか使う機会が減ったと聞くが、それでも鉋は「削ろう会」と呼ばれる競技会で、職人が極限まで薄い鉋屑を出すことを競い合い、技術を継承している。

 鉋は刃物の王様と呼ばれる。刃物の多くは、物を切るとき「点」で接する。その「点」が移動することにより、「線」のように切れるわけである。ただ鉋だけは違う。最初から最後まで「線」で切れることが要求される唯一の刃物である。ゆえに鉋の刃先は究極の「直線」であることと刃面が究極の「平面」であることが求められる。

柳刃庖丁と薄刃庖丁

柳刃は鏡面仕上げ・薄刃は霞仕上げ

 日本の建築、とくに宮大工が担う神社建築の部材は、白木であることが最上である。つまりは鉋をかけた木材がそのまま使われるわけで、サンドペーパーで磨くこともない。建具も白木が基本であり、建具師は鉋で薄く削って、白木の表面に艶を与えるという。

 剃刀ほど「身近」な刃物はない。なにしろ直接、人肌に触れる刃物は、剃刀と手術用のメス位のもので、切れ味を体感できるのだから。今では使い捨てが主流となった剃刀ではあるが、理容室にいけば西洋剃刀で髭を剃ってくれる。さらにこだわりの店では日本剃刀で剃り上げてくれる。この日本剃刀の剃り心地といったら、使い捨てのものとは比べものにならない。

 日本剃刀といえば、かつては越後三条と呼ばれるほど、だれもが憧れる特別な刃物であった。剃刀に使用される鋼は、ごくわずかな不純物も許さない、シビアな鍛錬によって生み出される。最高の切れ味を要求される研ぎもまた、特別である。「合さカラス」と呼ばれる京都産の仕上げ砥石で研ぎ上げる。この天然砥石がすこぶる高価でなかなか手が届かない物なのだが、私もいつかは砥石と剃刀を手に入れ、「自分の頭を剃り上げたい」と思う。

 庖丁の切れ味を支えるものこそ、砥石である。料理人でなくとも、月に一度は2~3本は研ぎを行う。刃こぼれがなければ、人造砥石の#1000位から始め、#3000、#5000、#8000と番手を上げ、仕上げ天然砥石(銘柄:梅ヶ畑・新田巣板・中山合さ)を用いて研ぎ上げる。場合によっては、中研ぎに天然砥石の丹波門前砥・青砥なども用いることもある。

出刃庖丁など

一番下のアジ切庖丁は
10年以上使用している

 仕上げ砥石は天然砥石に限定されるのだが、この砥石は京都でしか産出しない。京都には砥石専門に扱う店が数軒あるのだが、素人には少々敷居が高い。仕上げ砥石は合砥(あわせど)と呼ばれるが、これは刃物と砥石をマッチングする(合わせる)という意味である。一応、砥石の鉱山や地層の名前により銘柄があるのだが、それは目安でしかない。

 そこで自分で庖丁を持参して、店先で「試し研ぎ」をしてマッチングを行うのである。店主には当然ながら研ぎの技術を見られる訳で、その研ぎ味の評価を求められる。何種類か研がせてもらって、そのちょうど良い硬さの砥石を探すことになる。さらに緊張するのが、値段が付いていない。これがいいと決まったら、恐る恐る値段を聞くのだが、ここからは京都人特有のやり取り(値段交渉)があり、ようやく購入となる。ネット通販でも売ってはいるが、天然砥石は「試し研ぎ」に限る。

天然砥石
(左から青砥・梅ヶ畑・新田巣板)

(側面は和紙を張ってカシュー
を塗って補強。台自作)

 ここまで天然砥石にこだわるのは、人造砥石にはない目の細かさ(#10000以上)と硬さである。特に硬い天然砥石を用いれば、永切れ(ながきれ)する刃を付けることができる。最近、製鉄実験でお世話になっている藤安将平刀匠に作刀いただいた舟行庖丁を研ぐ機会を得た。地金に江戸時代の庖丁鉄、鋼に現代の安来(やすぎ)鋼(実験によって得られた高炭素鋼を一部混入)によって鍛錬された庖丁は、天然砥石の乗りがまるで別次元で、砥面に吸い付くようであった。江戸時代の庖丁鉄には微細な不純物が混じるが、これが鉄に粘りを与え、絶妙の研ぎ易さを演出している。瞬く間に刃が付き、鋼は輝きを増した。

藤安将平刀匠作の舟行庖丁と鞘

地金は江戸時代の庖丁鉄

 「仁侠映画」に始まったコラムだが、私も研ぎを重ね、刀匠の技術に触れる機会を経た今日おいて、いつかは日本刀を所持したいと思うのである。誤解のないように言っておくが、日本刀を所持するのに特別な許可などいらない。我々におなじみの県教育庁文化財課で刀の登録をすればいいことであって、家で鑑賞する限り銃刀法のご厄介になることもない。

 藤安刀匠が長年取り組んでおられるのは「古刀(平安~南北朝期の刀)の再現」である。この時期の刀は変化に富んでいてとても面白い。この時期の遺跡から出土する鉄もギンギンに光るわけではなく、どことなく潤いを感じるのである。ただ、まだまだ遺跡から学ばなければ技術の再現はできない。日本刀にたどり着くまで、日々精進である。

 

 

 む・・深い。

 しかし天然砥石・・お高いのでしょうね。しかも買っちゃってるし。

 ほとばしる情熱、精進の日々・・なんかもう「ラーメン」とか書けない気がする(爆)

 ということで、次回は新人さんが登場します。こうご期待!(管理人:葉羽)


        
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