トップページへ 組織概要へ 発掘調査情報へ 埋文トピックスへ 調査研究コラムへ
 
 トップページ > 遺跡調査部のご紹介(リレー・ブログ) > #033 ガロー探訪記 -地名のアルケオロジー- (2015.3.24)

 
遺跡調査部の仕事
これまでの実績
職員紹介
リレー・ブログ
研修報告

#033 ガロー探訪記 -地名のアルケオロジー- 青山 博樹

 気になる地名のことについて書いてみたいと思います。

◆ガローという地名
 ガローという地名が気になり始めたのは、帰省中にながめていた北海道苫小牧市の観光パンフに、
 「樽前ガロー」という地名をみつけてからである。
 
 横文字を冠した観光施設か何かとはじめは思ったが、市役所に勤める旧友によると、もとからそういう地名なのだという。調べてみると、樽前ガローは樽前山麓にある観光地としての地名で、地元の人は単に「ガロー」と呼ぶらしい。
 
 パンフレットには、崖に挟まれた谷底を流れる小川が写っていた。

 その風景をどこかで見たような気がしたが、それが何かはその時はわからなかった。

写真1

樽前ガロー
(北海道苫小牧市)


◆阿武隈山地のガロー
 既視感の理由が判明したのは、夏休みを終えて福島に戻り、浜通りの発掘現場へ向かう道すがらであった。

 いつも通る国道を通って阿武隈山地の峠をこえ、浪江市街の手前で「賀老橋」と記された道路標識が目に入り、そのことに気づいた。賀老橋は、浪江町の請戸川にある。付近は、大岩がゴロゴロと転がる渓流である。

 ガローの発見は続いた。

 今度は相馬市の山間部を走る国道115号線で「タチガロー」というバス停が目に入った。すぐ脇は宇田川の渓谷で、やはり谷底にゴツゴツとした岩が転がっている。

写真2

タチガロー
(福島県相馬市)

 同乗していたKさんにそのことを話すと、いわき市の夏井川渓谷にも「背戸峨廊(せとがろう)」という景勝地があると教えてくれた。

 そこも、「樽前ガロー」「賀老」「タチガロー」と同じく、切り立った崖に挟まれた渓谷である。

写真3

背戸峨廊
(福島県いわき市)

 楢葉町の木戸川渓谷にも「鷹鵞郎(たかがろう)」という地名があることに、地図をみていて気づいた。

 一度行ってみたいが、件の事故のためもありまだ果たせていない。

 地図をみる限りでは、上述のガローと同様の渓谷のようである。

◆北海道のガロー
 北海道にもさらにいくつかのガローをみつけることができた。

 平凡社の『北海道の地名』(地名大系)では、美唄市に「我路」、上磯町(現北斗市)に「峩朗鉱山」があることが記されており、地図上で赤井川村の「賀老の沢川」、島牧村の「賀老川」「賀老の渓谷」「賀老の滝」、八雲町の「賀呂川」をみつけた。

 帰省のついでに、それらのロケーションをみるべく足を運んでみた。

 操業中の峩朗鉱山は部外者の立ち入りが禁止されていたが、その他のガローのいずれもが渓谷であった。

写真4

我路
(北海道美唄市)

写真5

賀老の沢川
(北海道赤井川村)

 


写真6

賀老川
(北海道島牧村)
近くに「賀老の渓谷」「賀老の滝」もある

写真7

賀呂川の上流部
(北海道八雲町)

 東北北部にも、秋田県藤里町の藤琴川に「峨瓏峡(がろうきょう)」をみつけた。

 また、図書館でみつけた『岩手の地名』という事典にはガローが渓谷の意である旨が記されており、盛岡市の深沢渓谷に「ガロの滝」があることを知った。

写真8 

峨瓏峡
(秋田県藤里町)
アブの大群に襲われながら撮影。
近くに「峨瓏の滝」もある。

 ガローという地名は、東北と北海道に分布する、渓流につけられた名であることはほぼ間違いない。
 関東や北陸にも同様の地名がないか探しているが、まだみつけていない。

◆ガローの意味
 さて、東北と北海道に分布するガローという地名には、どのような意味があるのか。

 どのガローにも共通しているのは、ゴロゴロ・ガラガラと岩が転がり、ゴツゴツとした岩肌が露出する景観である。この、ゴロゴロ・ガラガラ・ゴツゴツとしたさまが、その由来なのであろう。
 
 はじめはガローという地名が日本語には思えなかったが、ガローに足を運ぶうちに、その語感と景観が一致することに気づいた。
 そして、東北と北海道に同じ地名があるという現象は、東北におけるいわゆるアイヌ語地名のあり方とよく似ている(この場合に「アイヌ語地名」という用語を用いるのには問題があるが、ここではあまりこだわらない)。
 あるいは、ガローという地名もその一つに数えられるのではないだろうか。

◆ガローからいえること
 東北のアイヌ語地名はこれまで多くの研究者が取り上げ、その意義が説かれてきた(金田一京助1932「北奥地名考」『東洋語学乃研究』、工藤雅樹1990「東北のアイヌ語地名とマタギ言葉のなかのアイヌ語に関するノート」『考古学古代史論攷』、山田秀三1993『東北・アイヌ語地名の研究』など)。

 東北のアイヌ語地名は縄文時代にさかのぼる古さをもち、東北と北海道に住んでいた人々が現在のアイヌ語に連なる言葉を話していた可能性も指摘されている。

 ガローという言葉の響きはその景観を言い表している、という感覚は、それがアイヌ語だけでなく現在の日本語にもつながっている、とまでいえるかどうかはわからない。

 ガロー地名には、東北のほかのアイヌ語地名とはやや異なる特徴もある。
 それは、いわゆるアイヌ語地名が東北北部に多いのに対し、さらに南の阿武隈山地にもみられることである。

図1

ガロー地名の分布

google mapを使用して作成

 

 ガロー地名は、他のアイヌ語地名に比べて分布が希薄でもある。

 ただし、阿武隈山地においては濃密といっていい。

 そこには何か理由があるのかもしれないが、それはまだ考え中である。

 (2015年3月24日 脱稿)


 なんだろうと不思議に思いそれを突きつめて調べてみる、、、なかなかできないことですね。
今回の「ガロー」という地名のように、「語感と景観が一致する」地名や風景に出会ってしまった瞬間、その昔そこに存在していた人と同じ感覚になれたようで、なんだかロマンを感じてしまうな...なんてことを、ブログを読みながら考えました。

 次回で今年度のリレーブログは最終回!南相馬市に出向されるKさんです!
(管理人:葉羽)


        
このページのトップに戻る▲  
 
遺跡調査部トップページへ  (C)The Culture Promotion Organization of Fukushima Prefecture
 All rights reserved.
サイトポリシー プライバシーポリシー サイトマップ ご意見