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 トップページ > 遺跡調査部のご紹介(リレー・ブログ) > #107 沿海州とチベットの股木 十専’木尌(2017.07.11)

 
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#107 沿海州とチベットの股木 十専’木尌

◆「股木」とは、アイヌやマタギが狩猟にかならず携行する杖のことをいう。先端が二股に分かれていることからそう呼ばれ、一説によれば、「マタギ」という呼び名はこの股木に由来するという(喜田貞吉1933「狩猟民を『マタギ』といふ名称の新考」『歴史地理』第62巻第3号)。

◆何年か前のこと。テレビのチャンネルを回していてふとある映画に指がとまった。みているうちに話に引きこまれ、ついに最後までみてしまった。全編が外国語(ロシア語)で語られるので洋画と思ってみていたが、黒澤明監督の日ソ合作映画「デルス・ウザーラ」であると知ったのは、映画の途中であった。
 近代のロシア沿海州が舞台で、詳細な地理の不明であったかの地をロシア軍兵士とともに踏査する探検家と、先住少数民族の年配の男性の交流を描いた物語である。「デルス・ウザーラ」とはその男性の名前で、原作者はこの探検家である(アルセーニエフ著、長谷川四郎訳、『デルスー・ウザーラ』、河出書房新社)。
 デルス・ウザーラは、森の中で暮らして(特定の家をもたない遊動生活)、自然を知りつくし、射撃が得意で、探検隊を先導して活躍する一方、文明社会の中では肩身の狭い思いをする。妻と子は疱瘡で亡くしたという。
 ストーリーはさておき、この映画に気になる場面がある。その男性が持つ杖の上端が二股に分かれているのである。それはどうも「股木」らしい。
 アイヌやマタギのもつ股木が沿海州にも存在するのだろうか。マタギについての聞きかじりに照らすと、映画に描かれたその男性の暮らしぶりはマタギに似る。
 ただ、映画の中のことである。どこまで考証がゆきとどいているか、確かなことはわからない。
 原作には、デルス・ウザーラが銃架にするための杖を持っているとある。銃架にするということは先端が二股に分かれていると考えられるが、射撃の際にその杖を銃架としてもちいたという記述はない。

写真1
映画「デルス・ウザーラ」の一場面
その1


写真2
映画「デルス・ウザーラ」の一場面
その2


◆このあいだ、また股木らしきものをみつけた。『脱出記』(スラヴォミール・ラウィッツ著、海津正彦訳、ソニーマガジンズ)というノンフィクションの中で、場所はチベットである。

 1939年、ドイツとソ連に分割占領されたポーランドで捕虜になった元陸軍将校の著者が、シベリアの収容所を脱走し、ユーラシア大陸を縦断して徒歩でインドに到達するというすさまじい旅行記?である。シベリア、バイカル湖、ゴビ砂漠、チベット高原、ヒマラヤ山脈を、囚人服で踏破する話は、あまたの貧乏旅行記の追随を許さない壮絶さである。

 ストーリーはさておき、くだんの杖は、チベットのラサの南のあたりで出会った羊を飼っている老人が持っていたという。それは次のように記述されている。
「老人は長さ1メートル50センチの木の杖に体重を預けている。その杖の下端には鉄の突起物が取り付けてあり、上端は枝の二股を活かして緩いY字形に開いていた。」
どうやらこれも股木らしい。

◆日本と沿海州とチベットでみつけた「股木」についての覚え書きである。これらの股木に何かしらの関係があるのかないのか、それはわからない。そもそも資料的価値は保証のない話である。


 なるほど、二つのストーリーに同じような形の股木が登場しているのですね。うむぅ・・どうしてY字になっているのか?

 デルス・ウザーラの画像を見ますとY字の先端がけっこう尖っているような。いざという場合の武器としても使えそうな気がします。

 ただ、『脱出記(THE LOMG WALK)』の記述では“体重を預けた”とありますね。体重を預ける使い方なら、Y字の下を持つのではなく、チャップリンステッキのように「J字型」(あるいはL字・T字型)の上から握った方が良さそうです。(※股木のような「Y字型」でも同じように使える…ま、これが杖の通常の使い方ですね。)

 また、現代の登山に用いられる代表的なトレッキング・ポールは「L字型」で、やはり“上から握る”形になっています。こうした用い方が機能的・実際的でしょう。

(C)arcoco

 他にも単なる棒「I字型」の製品がありますが、こちらは握りをサポートする紐が付いています。(※これは現代的なデザインですので、ひとまず置いておきましょう…。)

(C)arcoco

 実際に山歩きをする人に聞いてみると、上の「T字型」や「ひも付きI字型」を使っているそうで、特に「T字型」が優れているところは、休憩するときに地面に突き刺し、背中の荷物の支えにできるということでした。

 しかしながら『脱出記』に出てくる股木は1メートル50センチということなので、“上から持つ”には長すぎます。また『デルス・ウザーラ』の画像で見る股木も“横から握って”います。不思議です。

 そうなると、本来の杖としての身体を支える機能を犠牲にしてまで長い「Y字型」を使う意味は何なのか。これはマタギが常時所持する猟銃の“銃架にする”以外、考え付きません。

 なお、『脱出記(THE LOMG WALK)』(1956年)は、ソ連の捕虜となったポーランド人、スラヴォミール・ラウイッツが口述し、ロナルド・ダウニングが著述したものですが、ラウイッツ自身は実は収容所から脱獄したのではなく、1942年に釈放されていたことが明らかになっています。

 ←(つまりあの大冒険譚の内容は…ええ~!)

 ではまた~ (管理人:葉羽)


        
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