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 トップページ > 調査研究コラム > #007 水浸出土木製品における乾燥剤凍結乾燥法の基礎的研究(Ⅰ)(2014.6.6)

 
 このコーナーでは、職員が行った調査研究の成果について掲載しています。

#007 水浸出土木製品における乾燥剤凍結乾燥法の基礎的研究(Ⅰ) 中尾 真梨子

中尾 真梨子(財団法人福島県文化振興財団) 
奥山 誠義(奈良県立橿原考古学研究所) 
西山 要一(奈良大学) 


 

1.はじめに
 現在、水浸出土木製品の保存処理方法は、水溶性樹脂含浸法、非水溶性樹脂含浸法、真空凍結乾燥法など様々な方法が開発されているが、その保存処理には未だに寸法安定性や経年劣化、遺跡から大量に出土する木製品の処理に関る諸費用および手間等の問題が残されている。また、水浸出土木製品は保存処理が行われるまで、自然乾燥を防ぐため水漬けする場合が多い。しかし水は腐敗するため、定期的に新しい水と交換しなくてはならない。さらに、水漬けの状態であると重量も重く、保管場所が限られてくるという問題点もある。

 本研究では、先述のような課題を解決するため、処理工程が少なく、高価な機械を必要としない保存処理方法の開発を目標に、乾燥環境に乾燥剤を使用した処理方法の研究を試みた。

 また、寸法安定性に特に着目し、既存の保存処理方法と乾燥剤凍結乾燥法との比較実験を行った。本発表は、基礎的研究を通じて得た成果から水浸出土木製品の保存処理方法のひとつとして「乾燥剤凍結乾燥法」の可能性について発表するものである。

乾燥剤凍結乾燥法の方法
 乾燥剤凍結乾燥法は、低濃度のポリエチレングリコール(PEG-4000#。以下PEG)を含浸した水浸出土木製品を乾燥剤と共に密閉容器にいれ、低温環境下(氷点下)において凍結乾燥する方法である。

 水浸出土木製品の保存処理において、まず課題となるのは寸法安定性である。出土した水浸出土木製品を放置すると、内部の水分が蒸発し、それに伴って収縮、変形、落ち込みなどが起こる。

 本実験に使用するPEG4000は、長さ約24nmの屈曲性鎖状高分子であるため、PEG分子は細胞壁からなる木材実質とその間に無数に存在する毛細管径よりも小さく、木材内部に残留し、木材を強化すると考えられる。そのため、乾燥剤凍結乾燥法では、凍結乾燥前にPEGを含浸させることにより、乾燥後の木材組織の強化だけではなく、乾燥途上における収縮変形の抑制作用を期待する。

 また、水浸出土木製品を密閉容器内に乾燥剤と共に置くことにより、密閉容器内の酸素濃度が常時よりも低い状態となり、さらに低温という条件が加わることにより容器内部の気圧が低下すると予測する。それにより、真空凍結乾燥と同様の環境が作り出す効果を期待する。以下に、工程の概要を示す。

  1. PEGを含浸させる (PEG20%水溶液→PEG40%水溶液まで)
  2. 表面の余分なPEGの洗浄
  3. 密閉容器に乾燥剤とともに密閉保管。サンプルは乾燥剤(本実験では SillicaGell,Medium Granular,Blue/和光純薬工業株式会社製を使用)と直接接触しないよう、不織布製の袋で包む
  4. -40℃に設定した冷凍庫に入れ、凍結し乾燥する

写真1:乾燥剤凍結乾燥法サンプル乾燥状況

3.実験
 本研究では、寸法安定性に特に着目し、既存の保存処理方法との比較を行った。比較する保存処理方法は、

1)真空凍結乾燥法
 サンプルにPEGを40%まで常温下で含浸させ、その後、-40℃下で予備凍結、真空乾燥を行う。真空乾燥は、真空凍結乾燥機(関西保存化学工業株式会社 AP-10B型)を使用した。真空乾燥の終了は、真空劣化を見て判断した。真空乾燥後、サンプル表面に吹き出したPEGをドライヤーの温風で溶かし、余分なPEGを拭い取った。

2)PEG含浸法
 実験サンプルにPEGを100%まで含浸させる方法である。前述の通り、本実験で使用するPEGはPEG4000S(株式会社三洋化成工業製)である。PEG20%水溶液からはじめ、40%、60%、80%、100%と20%ごとに濃度を上昇させていく。20~40%までは常温、60%~100%までは60℃に維持した環境下で含浸を行い、乾燥は常温で行った。100%含浸終了後、3日間乾燥し表面処理を行う。表面処理はエタノール50%水溶液を使用し、筆でサンプル表面に残存したPEGを洗い落とす。

3)乾燥剤凍結乾燥法
 サンプルにPEGを40%まで常温下で含浸させ、その後、密閉容器にシリカゲルと共にサンプルを密封し、-40℃下で乾燥させる。シリカゲルは不織布の袋に包み、サンプル全体を覆うように配置する。重量変化が前後3日間の重量変化において∓0.50g以内であれば、これ以上の乾燥はないと判断し、処理終了とした。表面処理は特に行わない。

4)自然乾燥
 サンプルを常温下で3日間乾燥させ、処理終了とした。

~の計4パターンである。乾燥剤にはシリカゲル(Sillica Gell,Medium Granular,Blue/和光純薬工業株式会社製)を使用した。

 実験に使用したサンプルは、発掘調査によって出土した水浸出土自然木の針葉樹、広葉樹2種(スギ/含浸率300%前後・ケヤキ/含水率1200%前後)を使用した。針葉樹材をサンプルA、広葉樹材をサンプルBとした。

 サンプルは縦4.0cm、横4.0cm、厚み2.0㎝程度の直方体を作製し、サンプルA 、サンプルB 共に図1に記す寸法にステンレス製の針金(太さ:0.5mm)を打った。このステンレス製針金をもとに、寸法安定性を比較した。

図1:サンプル寸法

4.結果と考察
 サンプルAでは、真空凍結乾燥法においては板目面、木口面、柾目面の平均収縮率が2.0%以内、乾燥剤凍結乾燥法においては、板目面、木口面、柾目面ともに3.0%以内の収縮を示し、従来の保存処理方法の寸法変化率からみて良好な結果が得られた。

 また、乾燥剤凍結乾燥法のサンプルBでの寸法変化率は3.0%以内と良好であった。変形や収縮の起こりやすい広葉樹において寸法の安定が図れた点において、乾燥剤凍結乾燥法の有効性が確認できた。

 乾燥剤凍結乾燥法では、木材内部の水分を非常に緩やかな速度で乾燥を行えるため、木材の寸法安定性に効果があることが確認できた。また、仕上がりの色調も本来の木材の色調に近いことが確認できた。

図2:サンプル寸法変化率比較表

 

写真2:サンプルA処理前後比較

 

写真3:サンプルB処理前後比較

5.今後の課題と展望
 乾燥剤凍結乾燥法の今後の課題としては、処理終了点の曖昧さの改善、保存処理後の強度、樹種及び器種の適応性の選択などが挙げられる。

 また、乾燥剤凍結乾燥処理後の木質内部観察などの実験に取り組み、細胞組織の変形・落ち込みなどの微細部の変化を確認し、保存処理法としての適応性を確認する必要がある。

【参考・引用文献】
1) 沢田正昭(1997)『文化財保存科学ノート』近未来社
2) 河越幹男・石垣昭(1991)「遺跡出土木材へのPEG含浸速度に及ぼす樹種、PEG濃度、及び温度の影響」『考古学と自然科学第23号』日本文化財科学会誌

【中尾 真梨子 2014.6.6掲載】(※本原稿は、平成24年開催第29回日本文化財科学会において発表した内容を一部編集したものである)

        
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